まだ途中(15)
カールスルーエの街を離れ、列車でシュツットガルトへ向かいました。
たまたまだったのかもしれませんが、フランクフルトから乗った列車とは違い、車両はコンパートメントタイプでした。
日本ではあまり見かけない造りです。
二人して車内をあちこち歩き回りながら、車窓の景色を楽しみました。
重厚感のある車両に身を任せ、ドイツでの仕事も一段落した安心感からでしょうか。
まるでテレビで見ていたヨーロッパの旅を、自分が歩いているような気持ちになりました。
シュツットガルトは、ベンツの故郷として知られる街です。
歴史ある街並みと近代的な建物が調和し、カールスルーエとはまた違った雰囲気を感じました。
そしてホテルでは、前のホテルとは違い(笑)、シャワーからすぐにお湯が出ました。
こんな当たり前のことが、少し幸せに感じられました。
翌朝、空港の待合室で搭乗を待っていると、どこからか楽器のチューニングをする音が聞こえてきました。
やがて小さなアンサンブルの演奏が始まります。
偶然、演奏の正面に座っていた私たちは、思いがけず特等席で聴くことになりました。
流れてきたのは、ヴィヴァルディの『四季』。
待合室の空気がふっと和らぎ、乗客の皆さんも、きっと同じ気持ちだったと思います。
私は、
「さすが音楽の国ドイツ。粋なサービスだな。」
と感心しながら、そのひとときを楽しんでいました。
ところが機内に乗り込んで驚きました。
先ほど演奏していた皆さんが、同じ飛行機に乗ってきたのです。
つまり、演奏会のために来ていたのではなく、私たちと同じ乗客だったのです。
搭乗までの待ち時間を、乗客のために演奏してくれていたのでした。
その瞬間、胸が熱くなりました。
ほんの短い時間でしたが、その演奏のおかげで空港での待ち時間が、とても温かい思い出になりました。
人を幸せにする方法は、決して大げさなことばかりではありません。
ほんの少しの気遣い。
さりげない行動。
それだけで、その場の空気は温かくなり、人の心まで和らぐのだと思います。
「何とカッコいい生き方だろう。」
私は心からそう思いました。
あれから何十年。
今でも、そんな心を持った人になりたいと思っています。
まだまだ修行中。
【まだ途中】なのです。
次回はいよいよロンドンです。
ドイツを離れ、無性に日本食が恋しくなった、そんなお話をしたいと思います。

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